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2024.02.23

《column.10》革をつくる人

kissora

慌ただしく過ぎていく日々の中で、
何が大切で、何がそうじゃないかを 自分の目で見極め、
一日一日を丁寧に、シンプルに暮らしたい。
そんな日常にそっと寄り添う 「kissora」との生活。
そんなコンセプトを掲げたkissoraが、
皆さまと革との毎日をより豊かに彩れるようにと始まったコラム企画。
革についての知識やひとつのトピックを深く掘り下げた内容をお届けいたします。
ぜひご一読ください。

コラム・08

革が製品になるまで

第10弾は「革をつくる人」です。前2回までのコラムで、「皮から革になるまで」「革が革製品になるまで」として連載してきた出張編の最終回となります。「皮」が「革」になるまでには多くの方々の手が関わっています。その全てをここでお伝えすることはできませんが、革をより身近に感じながら生活されている方々より、「革」が生まれる土地の特徴や、「革」の良さを語っていただきましたので、ここに記します。

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タンナーについて

「姫路のタンナーについて教えてください」と尋ねると「『姫路』のタンナーではなくここは『たつの市』のタンナーである」と返すのは、兵庫県たつの市にあるタンナーの代表。「姫路レザー」と名が蔓延るほど名の通る兵庫県姫路。しかし「革」の生産の主な土地には「姫路市」と「たつの市」の2大都市があるといいます。中でも今回主に取材を行わせていただいた「たつの市」は革の生産量、革にまつわる企業数が日本一であるそうです。また、姫路市とは生産する革に大きな違いがあるといいます。

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兵庫県の東側に位置する「姫路市」と西側に位置する「たつの市」。そのいずれも付近に大きな川が流れています。いずれもそうめんで有名な「揖保川」の支流ですが、その特徴は大きく異なります。
現在では鞣しの技術も大きく進歩し、様々な特徴の素材を各地域で生産することが出来ますが、その技術がなかった当時は水質に合わせたものの生産が行われていたといいます。

コラム02でも記載していますが、水が天敵とされる革も、作る過程では大変多くの水を必要とします。水は直に革に触れ、革は水を染み込ませて自分の一部にしていきます。そのため、革と水の関係性は深いものといえます。そして、水にも特性があり、使用する水によって「硬い革向き」「柔らかい革向き」と分けることができるというのです。
姫路市が位置する東側の水は水質として硬い革向きであるそうで、主に靴などの硬めの革製品に使用される革の生産が多く、対してたつの市が位置する西側は鞄や財布、衣類など柔らかい質感の仕上がりを目指す革の生産が行われるといわれています。そのため、ひとくくりに「姫路の革」とまとめることはできないのです。

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現在、日本全国で300余りとされているタンナーも数は減少傾向にあり、希少な施設となりつつあります。土地の特性を活かし、地場産業として発展した大きな生産力がこれからも長く続くこと、そしてそこで日々輝く技術に心よりリスペクトを表します。

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生産者の声

kissora: 単刀直入に「革の良さ」とはなんだと思いますか?
「それは何よりも『動物由来のものである』ことですね」
そう答えるのはたつの市のタンナーの代表。

kissoraの定番でありロングセラーの「オリーブヌメ」シリーズの革生産に携わっていただいているタンナーの代表にお話をお伺いしました。

昨今では、「レザー」という言葉が一人歩きしていて、全ての革が高級品であるというイメージや、合成皮革との明らかな差別化が欠落していることなど認識にズレを感じることがあるといいます。
代表: 「イタリアは3年前に『レザー』という言葉を法律化し、中国はコロナ前から国際展示会においては『レザー』は動物由来のものにしか使ってはいけないというルールを設けました。他のものは『マテリアル』と述べるような。
ヨーロッパにおいても同様に、革についての認識には重きをおいているそうです。しかし、日本ではまだまだ合成皮革との差別化が曖昧になっていて。《レザー=動物由来である》ということをきちんと伝え、その事実を大事にしたいという思いがあります。」

「また近年の動物愛護の流れが強くなり、革製造の業界がアゲインストになっている状況においても懸念しています。『革は食肉の副産物である』その認識がどうしても欠落してしまう。革業界全体で声を大にして伝えていかなければと感じています。」


kissora: 我々が使用している革はナチュラルな素上げ。傷やムラも素材の特徴として使っています。多くのブランドへ向けて革を作られているタンナーさんとしてその認識はいかがなものですか?

代表:「かわいい」や「色が綺麗」であることが革にも求められる時代です。均一で安定した仕上がりを求められることもあります。しかし kissoraさんの革はタンナーが作る、一番革らしい革。染料仕上げで傷もほとんど気にしない。素材の良さだけをとにかく追求した革といえますね。
kissora: どれをとっても同じというようなことですね。

代表: そうです。革の仕上げはお化粧と同じです。厚化粧をすればほとんど同じものを作ることはできますが、素材の持つ良さは引き出されません。対して薄化粧であればほんのひと膜を被せるようなものなので、時間が経つにつれて素材の良さが引き立って出てきます。

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ひとつのことを極めるということ

訪問したタンナーには多くの職人が在中していました。男性、女性ともに自分の力量と技術、感性を活かして日々働かれていました。その中で、幾度となくタンナーを見学させていただいた我々ですが、今回初めて調色をする工程を目の当たりにすることができました。まさに職人技と思える仕事を目にしましたので、こちらでご紹介させていただきます。

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調色とは染料や顔料として革に塗装を施す前に色を作る工程にあたります。無数の色の中からオーダーに合わせる調色が行われており、職人は自身の感覚を頼りに作業します。頼れるのは配合する量を見極める目と感覚だけ。この工場では熟練の職人 3名のみで行われているそうで、彼らが休暇を取る際は塗装の作業も行わないこととしているそうです。

感性に任せて作られている面もあるため、作る人が違ったり、日を跨いだりするだけでも仕上がりに差異が生じてくるといいます。
「少し赤みが足りない」「少し黄色が多い」など。作れる色の数は我々が認識している色の数の何倍もあるようでした。そこから目指す色を作り出す仕事は、ひとつのことを極め続けて成し得たまさに神業でした。

「調色をする人たちは彼らの感性で仕上げている。そのため同じ色は二度と出ない。」と代表は述べます。それが革の良さであって同じものを作り続けることだけが決して我々の仕事ではないのです。もちろん10回やれば10回同じものを求められる場合もあるそうで、アウトプットするものに合わせて手段を慎重に選びながら日々製作されています。

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今回取り上げた「調色」の他にも大変多くの工程を踏んで、「革」は作られます。「皮から革製品になるまで」と題してコラムを展開しておりますので、ぜひそちらも併せてご覧ください。

コラム:皮が革になるまで

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アフターレポート

今回は、兵庫県たつの市と姫路市のタンナーを訪問して革の成り立ちを改めて見学するとともに、いまの革業界の流れや今後期待していくこと、活動すべきことを現場の皆さんとお話しすることができました。革の最たる魅力ともいえる「ナチュラルマーク(=傷やムラなどの生きた証)」を活かし続けていくこと、そしてそれをより良いものとして皆さまに感じていただけることを目指して取り組むことに改めてギアが入りました。

そしてkissora創設以前から長い時間をかけてお付き合いいただき、コンスタントに安定した革を作り続けていただける、タンナーの皆さまへ心より感謝申し上げます。

兵庫県たつの市と姫路市にあるタンナーにお邪魔して「革」になる成り立ちを見学してきました。タンナーの方に「革」のまさにその魅力も語っていただきましたので、ぜひ併せてご覧ください。

YouTubeチャンネル「kissoraの中の人」

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