kissora 2023 S/S コレクション

kissoraブランドで使う革の特色は、「自然な風合い」と「透明感」です。 たとえば、この牛革には、首の部分のシワや、傷が治った跡など、 生きていたときの個性がそのまま残っています。 一般的な革製品の多くは、そこに顔料を厚く吹き付けて、無かったことに。 でもkissoraのクリエイターは、そうした「革の個性を活かしたい」という。 そのオーダーを革のつくり手に伝え、カラフルな色合いだけれど、 革本来の風合いは できるだけそのままという素材をプロデュースするのが、私の仕事です。 難しさは、もちろんあります。イエローやオレンジなど、革の状態がダイレクトに表れやすい明るい色に染めるときは、 どんな方法でどれだけ手を加えるか、特に試行錯誤します。 また、動物の皮膚のコンディションは季節ごとに違うので、 素材として安定した品質を保つために一年中気が抜けません。 新製品の企画ミーティングに急遽呼び出されることもしばしばで、 あわてることもありますが、密なコミュニケーションは、 ベストな素材選択に欠かせません。また、革は貴重な天然資源です。 シワや傷の許容範囲をできる限り広げ、 すみずみまで利用して廃棄部分を減らすという kissoraブランドの理念はエシカルで、とても共感します。

私たちの工房では、kissoraでロングセラーのウォレットを、10年近く、つくっています。分解したところを、ちょっと想像してみてください。革や芯材、生地、ファスナーやスナップなど、たくさんのパーツが組み合わされ、完成品になっているとわかりますね。単と芯材を貼り合わせたり、製品によっては7階にもなるパーツを縫い合わせたり、仕上げに内外をひっくり返してカタチよくなるように整えたり。すべてが手しごとで、どの工程にも、熟練した技術が必要です。とくに縫製は、やり直しがきかず、美しさに関わる工程なので、気が抜けません。直角のステッチは1針の狂いもなく、丸くふちどるステッチは製品の端からステッチまでの距離が均等でないとだめ。わずか0.5ミリの差で、仕上がりの表情が違ってしまいます。業界では、こうした技術の継承が課題です。だから、メイドインジャパンを守ることに力をそそぐkissoraブランドの姿勢は頼もしいです。試作品づくりでは、パーツを組み立ててみてはじめてデザインと単の持ち味がマッチしていないとわかることもあります。でもkissoraの場合は、革の厚みや特性が図面に反映されていて、「革を活かす」ことを真ん中に置いたものづくりだとわかります。

私が店長をつとめる横浜赤レンガ倉庫店は、大半が観光目的のお客さまです。 それでもお買い上げくださる方が多いのは、 kissoraの個性的な製品と「運命の出会い」をするからだと思います。 接客のときは、よく例え話をするんです。 一般的な革製品のように顔料で厚化粧した革とは異なり、 kissoraで使う革はすべて「ナチュラルメイク、つまり薄化粧です」って。 だから動物が草木などで体を引っ掻いた跡や、ホクロがある革も、 捨てたり、隠したりしないで、製品の一部になっています。 それを知って、手にした品に愛着を持たれるお客さまは多いですね。 また、薄化粧のよさは、革の経年変化を存分に楽しめることです。 お買い上げの数年後、いい感じに変化した製品を、「こんなふうに育ちました!」と見せに来てくださる方も多いです。 長く製品を使っていただき、お客さまのエコなライフスタイルに貢献することも ブランドのコンセプトなので、店内にはミシンを置いて修理やお手入れもしています。 私はkissoraの職人店長のなかでも特に小物づくりが好きで、 デザインと製作を手がけた生活雑貨シリーズは商品化されています。 みなさんにとって革製品がもっと身近になると嬉しいです。

長財布が欲しくて、最初はネットでいろいろ見てて。 kissoraは、革なのにカラフルでいいなと。 でもネットでは、本当の色や質感がわからないので、お店に行きました。 それで実物を見て、最初はちょっとびっくり。 思っていたより、色のニュアンスがひとつずつ違って、 ものによっては細かいシワが入ってたり。 同じデザインでも、それぞれが一点モノみたいと気づいてからは、 結構長い時間、真剣に選びました(笑)。 ただ、一番気に入ったお財布に、ポツンと小さな傷があって。 店員さんに聞いたら、「牛が虫に刺された跡」って。 意外すぎて笑っちゃいました。それが、これです。 使いはじめの頃は、革が硬めと思っていたけど、使っているうちに 少しずつ柔らかくなってきて、半年くらいして、独特のツヤが出てきた頃は、 おおおって。嬉しい変化でした。 その頃、友だちへのプレゼントを探しにお店に行ったら、 店員さんが声を掛けてくれて、お財布の手入れをしてくれました。 そしたら少し気になっていた小さな引っかき傷が目立たなくなって。 最近は、ファスナーの引き手が壊れて修理を依頼しました。 そこだけ新しい革になってまた雰囲気が変わり、ますますいい感じです。 モノを大切にして長く使うライフスタイルは、心地いい。kissoraと出会えてよかったです。